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2020年春号

進歩するがん医療とがん教育

医療の進歩とがん治療の歴史

2019年の9月から2020年の3月まで放送されてきた、NHKの朝の連続テレビ小説「スカーレット」最終回を視聴しました。ドラマでは、陶芸家の神山清子さんをモデルとしていますが、神山さんの長男賢一さんは慢性骨髄性白血病(CML)を発症したことから、日本の公的骨髄バンクの設立に尽力されました。私は血液がんの患者会の運営に関わっているので、患者さんやご家族との交流会や相談電話などで「スカーレット」の話題となることもありましたが、その中でCMLの患者さんの脱毛シーンに関する意見がありました。

「治療が始まってから何ヶ月も経って脱毛していた。あんなに遅いはずがない。ドラマだからね」というものでした。そうか、今治療を受けている血液がん患者さんには伝わらないよなぁ、「あの頃」は歴史になったんだなぁと思いました。

ドラマで描かれた1980年代後半は、2001年に国内承認されCMLの治療を大きく進歩させた分子標的薬イマチ二ブ(販売名:グリベック)はもちろん無く、骨髄バンクも無い中で、ドナーが見つからない限り、骨髄移植以外は治癒が期待できない時代でした。ドナーが見つからないときのCMLの治療方針は「いずれ確実に迎える急性転化まで、進行と症状を抑えるために(弱い)薬物療法を行う」というものでしたから、脱毛のシーンはある意味リアルだったと言えるかもしれません(スカーレットには血液内科医の監修が入っていました)。

私は2000年に血液がんである悪性リンパ腫を発症して治療を受けましたが、その後の2000年代以降の分子標的薬をはじめとするがん治療の進歩は著しいものがあります。

医療の進歩と変わらない当事者の様々な苦痛

ドラマで描かれたシーンが「歴史」となったのは、医療の進歩であるのはもちろんのこと、骨髄バンクの設立を含め時に命を削りながら医療の進歩に貢献し、声を上げ続けた多くの患者さんやそのご家族がいたからであり、その皆さまに心より感謝するほかはありません。より多くのがん患者に治癒や長期生存が期待できるようになり、患者さんを支える支持療法も進歩したことから、がんになっても日常生活を送りながら治療を受けている患者さんも多くいます。しかし、これらがん医療の進歩に関わらず現在でも、全てのがん患者さんに治癒が期待できるというわけではなく、がんと告知された患者さんの多くはショックを受けますし、がんの進行や治療に伴う身体的、精神心理的、社会的な苦痛があるとされています。

ドラマで描かれたシーンが「歴史」となったのは、医療の進歩であるのはもちろんのこと、骨髄バンクの設立を含め時に命を削りながら医療の進歩に貢献し、声を上げ続けた多くの患者さんやそのご家族がいたからであり、その皆さまに心より感謝するほかはありません。より多くのがん患者に治癒や長期生存が期待できるようになり、患者さんを支える支持療法も進歩したことから、がんになっても日常生活を送りながら治療を受けている患者さんも多くいます。しかし、これらがん医療の進歩に関わらず現在でも、全てのがん患者さんに治癒が期待できるというわけではなく、がんと告知された患者さんの多くはショックを受けますし、がんの進行や治療に伴う身体的、精神心理的、社会的な苦痛があるとされています。

がん教育~「語りで伝える命の大切さ」~

学習指導要領の改訂に伴い2020年以降、小学校、中学校、高等学校で順次、がん教育が実施されていきます。2015年に公開された文部科学省「学校におけるがん教育の在り方について」では、「生涯のうち国民の二人に一人がかかると推測されるがんは重要な課題であり、健康に関する国民の基礎的教養として身に付けておくべきものとなりつつある」としたうえで、がん教育の目標を「がんについて正しく理解することができるようにする」「健康と命の大切さについて主体的に考えることができるようにする」としています。前者については、教科書や様々な補助教材、そして学校の教員や医療者などの外部講師による教育が大きな役割を果たすでしょうし、その中で「がん医療が進歩している」ということも触れられるかもしれません。

「命の大切さ」については、がん患者や家族といった外部講師が大きな役割を果たす可能性があります。文部科学省の報告書でも「がんと向き合う人々と触れ合うことを通じて、自他の健康と命の大切さに気付き、自己の在り方や生き方を考え、共に生きる社会づくりを目指す態度を育成する」とされているように、がん患者や家族の「語り」が児童や生徒に与える影響は大きなものがあります。私自身も、東京都や千葉県などで実施されてきたがん教育のモデル事業などで、外部講師の一人として関わってきましたが、私が自身のがん経験に基づいて話をすると、それまで退屈そうにしていた生徒たちが、食い入るように私の話に耳を傾けてくれることを経験します。

がん教育に必要な様々な配慮

一方で、生徒の中には家族や近しい人でがん患者がいる生徒も少なからずいますし、中には小児がんの生徒もいることから、様々な配慮が必要となります。また、がん以外の様々な疾病や「生きづらさ」を抱えながら学校生活を送っている生徒もいることから、「押し付け」となるような授業は慎まなければならず、誰もが外部講師を務めて良いということにもなりません。私が理事長を務める一般社団法人神奈川県がん患者団体連合会では、横浜市教育委員会の共催と神奈川県教育委員会の後援を得て、がん教育の外部講師向けの研修会を開催し、その修了者を冊子でリスト化して公開しています。また、全国がん患者団体連合会では、国立がん研究センターの協力を得て、外部講師向けのeラーニングを公開しています。こういった受講者が今後各地の学校でがん教育を実践することで、「がんになっても安心して暮らせる社会」が構築されることを願います。

天野慎介

1973 年東京都生まれ、慶應義塾大学商学部卒。2000 年、27 歳のときに悪性リンパ腫と診断され、化学療法、放射線療法、自家末梢血幹細胞移植を受ける。
自身の経験をもとに悪性リンパ腫の患者団体「グループ・ネクサス・ジャパン」の活動などに関わり、2009 年から厚生労働省「がん対策推進協議会」の委員と会長代理を 2 期 4 年務めた。
現在、一般社団法人全国がん患者団体連合会理事長、一般社団法人神奈川県がん患者団体連合会理事長の他に、厚生労働省や文部科学省、神奈川県の公的審議会の委員等を務める。

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