10代、20代で経験したがんと感じた孤独
私は16歳で甲状腺がん、25歳で悪性リンパ腫と20代のうちに違うがんを2つ経験しました。甲状腺がんを発症した1988年は、まだ患者本人にがんを告知するかをためらうような時代でしたが、私の場合は主治医からがんの種類や治療の仕方の説明がありました。治療が終わったら早く元の高校生活に戻りたかったので、周りの大人たちの心配をよそに少し無理をした生活をしていたかもしれません。
その9年後の1997年に血液のがんであるリンパ腫を発症した時は本人への告知は主流になっていましたが、自分ががんであることを公表することは、まだ勇気のいる時代だったように思います。リンパ腫のタイプも希少難治性のため長期入院の治療となり、仕事も休暇を余儀なくされました。
20代の女性であれば当たり前に思い描いていたこれからの仕事、結婚、出産、その後の人生が一気に見えなくなりました。本人以上に心配している両親には悩みを打ち明けられず、孤独でした。
日々の困りごとを闘病記で
治療や副作用になんとか折り合いをつけ、治療のために入院した病院の雰囲気は当時のテレビドラマで見たものとかなりギャップがありました。突然のがん告知や数々の副作用には衝撃を受けましたが、もっと困ったのは治療や副作用にまつわる日々の生活でした。例えば、脱毛した私の頭にフィットする帽子やウィッグをどこで手に入れたらいいか、感染症の気をつけ方、仕事へ復帰する時、新しい出会いがあった時に自分の病気をどこまで言えばいいか等です。
私が感じた困りごとはたまたま同年代の患者仲間が知っていることは教えてくれて、共に悩み、精神的にとても助けられました。しかし他の人はこの困りごとをどう解決しているのだろう、この経験を共有できる情報にできたらいいのに、と思いました。
日頃からがんという病気を身近に感じ、ありのままの患者の姿を少しでも知ってもらえたら、と私は闘病記を2002年に新潮社から出版しました。そのことをきっかけにがん教育が広がる前から、中学校や高校で講演の機会をいただきました。
「患者さんは、こんなことを考えているなんて知らなかった」
「病気したように見えないけど、治療の苦労や実際に経験しないとわからない生活の困難もわかった」とイメージの変化があった感想があり、自分の経験を話せてよかったと思えました。
また「強い人だと思った」という感想もありました。私は決して強いと思ったことはありませんが、困難に直面した時のなんらかの「力」を感じてくださったのかもしれません。
AYA世代のがん患者会の立ち上げと私の経験をとおして
難治性のリンパ腫と告知され、治療が終了してからありがたいことに再発もなく長い月日が経ちました。リンパ腫の患者会グループ・ネクサス・ジャパンの運営にも関わるようになり、AYA世代の患者が集える、若年がん患者会ローズマリーも立ち上げました。すべてが順調だったわけではなく、小児AYAがんにしばしば見られる晩期合併症も経験しました。しかしいまの私は孤独ではありません。経験談をさらにブラッシュアップできる神奈川県がん患者団体連合会で知り合った、たくさんの患者外部講師の仲間がいます。全国的に広がりを見せるがん教育に患者外部講師として担えるために共に学び、取り組んでいます。
自分のがんの経験を話す時に気をつけていることがいくつかあります。
まず、私の話は患者の代表ではなく一患者の経験に過ぎないことです。私が経験したことは誰でもなるとは限らないので、「私の場合は」と言葉を入れるようにしています。
また、「◯◯するべきだ」「△△のはずだ」など決めつけないように心がけています。
がん教育は「これでいいのだ」と凝り固まることなく、理想に向かって常に医療者、教育者、がん経験者等様々な立場で話し合い柔軟に前へ進んでいけたらと願っています。
がん教育に患者外部講師が関わることで、がんという病気を正しく知ること、健康と命の大切さに考えることの先に「相手を想像する力、優しくなれる力」が児童、生徒のみなさまに育まれたらとても嬉しいです。がんを特別で他人事の病気と思わずに、正しく理解すれば見えない溝は埋まるのだと思います。
今、伝えたいこと
20代で2つのがんになった私が今、伝えたいこと。思い描いていた人生ではなくても、ときには自分の身体を持て余すことがあっても、幸せかどうかは自分が決められます。同じ方向を見つめて歩める人が現れ、あきらめていた結婚をすることができました。想像できなかった新しい希望はあります。今後、もし周りの人や自分ががんになった時、「学校でがんの経験を話しに来ていた人がいたな・・・私は一人じゃないんだ!」と思っていただけたら、嬉しいです。
※AYA 世代のがんとは?
AYA(Adolescent&Young Adult)の略で、アヤ世代と読みます。
思春期や若年成人世代の方、15 歳から 39 歳の患者さんが当てはまります。
多和田奈津子
一般社団法人グループ・ネクサス・ジャパン理事
若年がん患者会ローズマリー世話人
横浜市立大学附属市民総合医療センター院内患者会勇希の会アドバイザー兼世話人
がんプロフェッショナル養成プラン外部評価委員
神奈川県横浜市出身。
16 歳で甲状腺がん、25 歳で悪性リンパ腫(節外性 NK/T 細胞リンパ腫、鼻型)を発症した AYA 世代
多重がん経験者。
2002 年に『へこんでも―25 歳ナツコの明るいがん闘病記―』を出版。
患者経験を生かし患者会活動や、中学校、高校、大学医学部等で講演を行っている。
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