競泳日本代表の池江選手が、体調不良のため検査を受けたところ白血病と診断されたことを、本年2月に自身のツイッターで明かしました。記録を次々と更新している伸び盛りの18歳で、2020東京オリンピックでの活躍が大いに期待されていたところです。現在、彼女は治療に専念していますので、何とか病気を克服し、また元気な姿を見せて欲しいと切に願っているところです。
「白血病ってどんな病気?何が原因?治療法は?」など、調べた方もいらっしゃると思います。白血病は血液のがんとも言われており、血液細胞が骨髄でつくられる過程でがんになるそうですが、白血病を含むがんは、その発病の原因や仕組みなど、未だ完全に解明されているわけではありません。そして、生涯のうち国民の2人に1人ががんにかかり、3人に1人ががんを原因として亡くなっている現状において、がんは様々な健康障害の中でも最も重要な課題であり、私たち一人ひとりが、がんのことを基礎的な教養として知っておくためにも、学校教育の段階においてきちんと学ぶ必要があります。
神奈川県におけるこれまでのがん教育の取り組み
本県における「がん教育」の取り組みは、国が2012年6月に「がん対策推進基本計画」を策定したのを受けて、2013年3月に「神奈川県がん対策推進計画」を策定し、この中で新たに「がん教育の推進」を位置付けたのが具体的なスタートと言えます。そして、中川恵一先生(東京大学附属病院)を座長に、県立がんセンター、がん患者会世話人、県医師会や学校関係者などで構成する「県がん教育検討会(2013年からは、がん教育協議会)」を設置しました。
この検討会では、学校におけるがん教育の実践を目指し、DVDやパワーポイントの教材を作成すると共に、
県内の私立中学校で、中川先生による講義や元がん患者の体験談などで構成した「がん教育モデル授業」を開催しました。中学2年生が対象でしたが、「がんについて考える」ということについて、おそらく彼らの人生で初めての体験となったものと思います。
この取り組みから、本県における「がん教育」は加速度的に進んでいきます。翌2014年には、文科省の新規事業「がんの教育総合支援事業」を受託し同様のモデル授業を3校で実施しました。この授業は公開授業とすることで、他校も含めて教職員の理解を得ていくとともに、生徒、教職員に授業の評価アンケートを実施しました。2015年度からは、がん教育の本格実施に向けて、まずは教員へのリテラシー調査を実施するとともに、教員向けの研修会や教員によるモデル授業を県内10校で実施しました。さらに、2016年度からはモデル授業の対象に高校を加え、2017年度からは外部講師を活用した研究授業にも取り組みました。
このように、がん教育の対象を少しずつ拡げるとともに教員の関わりを深めていきながら、教育現場におけるがん教育の在り方を探っていきました。
がん教育展開上の課題とこれからのがん教育の取り組み
この間、国では2016年12月にがん対策基本法が改正され、がん教育に関する内容が盛り込まれました。
そして、2017年から順次、小・中学校、高等学校の学習指導要領が改訂され、体育、保健体育の解説編に「がん」という言葉が明記されました。今後の学校におけるがん教育に一層の進展が期待されるところですが、この改訂を受けて、教科書にどのように「がん」が取り扱われてくるのか、どこまで書き込まれてくるのか、そこに至って初めて教員の意識が本格的に変わってくるのではないかと思っています。
2015年に県がん教育協議会が実施した教員へのリテラシー調査(県立がんセンター片山先生がご担当)によれば、がんに関する知識が不足しているため、専門家による講義の受講や、指導要領に沿ったテキストの配布などの支援が必要と考えている方々も少なくありませんでした。いざ学習指導要領に則ってがん教育をやりましょうと言っても、現状ではまだ自信がないというのが正直な話ではないでしょうか。また、正しい知識や教材等があれば簡単に授業ができる訳でもなく、教員がこれらを自分のものにし、がん教育の必要性を十分に理解しないと良い授業はできません。
いかに子供たちの心に届く授業ができるか。そのための手法を教員なりに研究する時間が必要だと思います。それまでの間、専門的知識と豊富な経験を持つ医師などに外部講師としてお願いしていくことも非常に有効であると思います。
医学は日々進歩しています。「がん」の解明が進むにつれ、子供たちに教える内容、手法もステップアップしていかなくてはなりません。
これからも関係者が連携できる体制を継続して、「がん教育」に取組んでいくことを期待しています。
田中不二夫
神奈川県スポーツ局 参事監
神奈川県教育委員会保健体育課長として文部科学省「がん教育」の在り方に関する検討会の委員としてがん教育の推進に先駆的にかかわる。
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