わが国のがんの状況
がんは1981年から日本人人死因のトップとなり、その後も増年続け、今や年間約97万人が「がん」と診断され(2017年)、約37万人が「がん」で亡くなり、2018年(、生涯のうちがんと診断される人は、男性63%、女性48%(2015年)、つまり、国民の2人にひとりが「がん」にかかる時代となっています。一方かつて、がんは不治の病と思われていましたが、がんの治りやすさの指標である5年相対生存率は、64.1%(2009〜2011年診断例)まで上昇し、今後さらに上昇することが見込まれています。
様々な問題を生んでいるがんのイメージ
内閣府が2016年に実施した世論調査では、「2人に1人が『がん』にかかる」と思っている人は31.3%、「がん全体の5年生存率は50%を超えている」と思っている人は、29.5%という非常に少ない状況でした。つまり、多くの人にとって、がんは自分には関係ない稀で、死に至る病気というイメージが残っている状況だと思われます。そのため、がんの1番の要因であるたばこの喫煙率が先進国の中で最も高い、がんで亡くなることを確実に減らすことができるがん検診の受診率も他国より低く3-4割程度、他人事と思っていたがんと診断されると、頭が真っ白になって冷静な判断ができずに、抗がん剤を拒否したり、効果が証明されていない高額な自由診療に飛びついてしまったり、がん患者は働くことができないという会社幹部の誤解により解雇されてしまうなど、様々な問題が生じています。
がんに関する知識と理解を促進するがん教育
政府は2006年「がん対策基本法」を策定し、がん対策を強化しました。同法は2016年に改正され、「学校教育及び社会教育におけるがんに関する教育の推進」が追加されました。わが国の計画であるがん対策推進基本計画(2020年)では、①予防と検診を推進すること、②適切ながん医療を受けられるようにすること、③がんになっても安心して暮らせる社会を作ることが、全体目標とされ、これらの施策を支える基盤としてがん教育が揚げられました。つまり、がん教育で、がんに関する正しい知識と理解を促し、がん対策を推進することを目指したものとなっています。
文部科学省の動き
文部科学省は、2015年3月「学校におけるがん教育の在り方(報告)」を取りまとめ、がん教育を定義するとともに目標を定め、がん教育の具体的な内容を提示しました。その内容に基づいた「がん教育推進のための教材」、「がん教育推進のための教材指導参考資料」などを作成し、WEBサイト(URL:ganjoho.jp)で公開しています。さらに、2016年4月「外部講師を用いたがん教育ガイドライン」を取りまとめ、がんそのものの理解、がん患者に対する正しい認識を深めるために医療従事者、がん経験者等を外部講師として活用することの重要性を示しました。また、新学習指導要領では、「がんについても扱う」と明記し、2021年度から中学校で全面実施、2022年度から高等学校で年次進行で実施とされています。
がん教育を支援するリソース
がん教育を支援するリソースとしては、文部科学省が作成した教材等に加え、その教材でも紹介されている国立がん研究センターがん対策情報センターが運営するWEBサイト「がん情報サービス(URL:ganjoho.jp)」があります。予防〜検診〜治療〜がん患者を支えるサバイバーシップ支援まで、幅広い情報をわかりやすく解説しており、子どもたちの自己学習にも活用できると考えます。一方、外部講師の養成ツールとして全国がん患者団体連合会(全がん連)が運営する「がん教育外部講師のためのeラーニング」がお薦めです。eラーニング受講後、テストを受験し合格すると、修了者として、全がん連のWEBサイト(URL:http://zenganren.jp)で都道府県別に公開していますので、外部講師の候補を探す際にも役立ちます。
おわりに
がん対策におけるがん教育の意義と現状、支援ツールなどを紹介しました。がん教育によって、正しい知識と理解 が広がり、わが国の重大な疾患であるがんで亡くなる人が減ると共に、がんになっても安心して暮らせる社会が実現されることを期待します。
若尾文彦
国立がん研究センターがん対策情報センターセンター長
横浜市立大学医学部卒業。 国立がんセンター病院レジデント・同中央病院放射線診断部医員を経て、国立がんセンターがん対策情報センターの開設にあたり、センター長補佐、情報提供・診療支援グループ長併任となり、以後、WEBサイト「がん情報サービス(URL:ganjoho.jp)」、「がん患者必携」など、がん情報の発信に取り組む。現在、国立がん研究センターがん対策情報センターセンター長。
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