がん教育が新学習指導要領に位置付けられ、2020年度から順次学校教育の現場で実施されます。しかし、がん教育が学校教育で実施されるに至った道のりは平たんではなく、様々な課題、議論を重ね、多くの関係者が協力連携することで、今日に至ったことはご存知のとおりです。
特に医療者と教育者そしてがん経験者がタッグを組むことでがん教育はより効果的に実施することができます。しかし、協議会という組織体を持たない自治体や、がん教育外部講師の活用がうまくいっていない自治体、一体どこからはじめていけばいいのか、頭を抱えている教育委員会もあるのではないでしょうか?
私は主にデータに基づくがん対策を考えて、それらのプロジェクトをマネジメント(PM)する研究を行っています。がん対策の難しいところは、シックケアではなくヘルスケアであることであり、健常人といわれる一般集団へ介入を行わなければいけないことです。がん対策としてのこのヘルスケア的側面は、知識の普及による行動変容に負うところが大部分で、ご存知のように第2期、3期がん対策推進基本計画の「がん教育、情報の普及啓発」という言葉に集約されています。しかし、どのような集団にどのような伝え方でどのような物を伝えればよいのかは「がん教育、情報の普及啓発」を行いながら実施効果の根拠を示していかなければなりません。PMの視点からは現時点では学校教育のがん教育が主であり、当然がん教育の主体者は学校教員です。学校教員はがん経験者・医療者・行政と共同で動いていかなければなりません。この調整を教員にのみ負わせる、行政にのみ負わせる、外部講師であるがん経験者・医療者のみに負わせるのは不可能であり、さらには関係者へがん教育の成果物をどのように提示するかがPMの腕の見せ所ではないでしょうか。
マニュアルによる明文化を含めた最低限の質を担保したシステムと個人特性が共存できることが理想です。その視点で少しでも神奈川県をはじめ、全国のがん教育プロジェクトに貢献できればと思っています。
ところでがん教育は学生に限ったことではありません。今日の高齢化が進んだ日本では多くのがんを経験している人にお会いします。社会の一員としていわれない偏見をうけないことのがん対策にもがん教育が負う部分が大きいと思われます。また、健康を応援する企業として損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険は新卒採用に非喫煙者、または入社時点で非喫煙者であることという条件を組み入れ、ソフトバンク等でも就業中の禁煙を段階的に導入しています。がんに限らず 日本では能動的な喫煙に起因する疾患によって年間約13万人、受動喫煙によって年間約1万5千人が死亡していると推計されています。大企業の従業員は1,229万人で中小企業と合わせた全体での大企業比率は31%, つまり、日本人の10%は大企業職員です。各個人の背景情報を無視して大企業の従業員数が生涯非喫煙と仮定すると、喫煙が原因で死亡する13万人の10%程度の1.3万人の死亡を防ぐことができます。勿論、他の原因で亡くなる可能性を排除できませんが、受動喫煙による死亡も防ぐことができます。企業におけるがん教育にも期待してあとがきとさせて頂きます。
神奈川県立がんセンター臨床研究所がん予防・情報学部 阪口昌彦
阪口 昌彦
大阪府高槻市出身、高知大学大学院大学院総合人間自然科学研究科博士課程修了。
博士(理学)
高知大学医学附属病院次世代医療創造センターデータマネジメント部門にてデータサイエンティストとして多くの臨床研究に携さわる。がん登録のデータマネジメントやリンケージに携わる一方、がん教育やがん医療情報発信にも精力的に携わる。現在、神奈川県立がんセンター臨床研究所がん予防・情報学部研究員。
【専門】数理情報科学、生物統計、データマネジメント
コメント